『ファミリービジネスにおけるダイバーシティ経営』 第十一回 ダイバーシティ経営の現状を聞く 女性社外役員インタビュー後編 女性活躍社会を実現するためには

法政大学IM総研ファミリービジネス研究部会 特任研究員
中小企業診断士 CEO 榎本典嗣

本コラムは、中小企業診断士であり、長年中堅・中小企業の経営支援に携わってきた榎本と同じく中小企業診断士でもあり、社会保険労務士・行政書士として中小企業の人事戦略を支援してきた瑞慶覧と連載していきます。

コラムは6月より約3か月に渡り、毎週月曜日に配信を行う予定にしております。

第十一回 
ダイバーシティ経営の現状を聞く 女性社外役員インタビュー 
後編:女性活躍社会を実現するためには

2030年までに女性役員比率を30%以上とする、女性版骨太における方針決定により改めてダイバーシティ経営が注目を浴びています。この時流に関して今回は実際に複数の企業の社外役員として活躍されている法政大学専門職大学院准教授の大塚有希子先生にインタビューの機会を得ることができました。

後編となる今回は、「ダイバーシティ経営を進めるために女性活躍ができる場をどう実現していくか」についての話しとなります。

社長が自ら学ぶ姿勢を見せる

まず後編の冒頭では「女性の外部役員が入ったことによる好影響」について伺いました。

「ある企業では女性向けのスキルアップの制度を作ったり、医療機関と連携したメンタルヘルスケアの環境の整備が進みました。」

「あと、ある社長が、某大学のエグゼクティブに通い出したりして、何か刺激を受けているかも(笑)」

大塚先生は続けて話します。

「会議は長くなったと思いますよ。元総理の森さんが、会議に女性が入ると長くなると言ってましたが、その通りかもしれない。私と一緒に入っている女性役員の方も、忖度せず、指摘すべきことを指摘されている。要はしゃんしゃん会議ではなくなったんです。今では男性役員もどんどん発言されています。会議が単なる報告の場ではなく、それぞれの責任の立場の視点から問いかけがあり、有効に機能しているように思います。」

私は、女性が入ることで会議が長くなることは無いと思っています。言うべきことをズバッと言う、外部役員の役目はまさにここにあり、大塚先生の真骨頂が垣間見れた言葉でした、大塚先生をはじめ女性が外部役員に入ったことで女性活躍のための施策が促進されたことは確かなようです。また、企業の役員に対しても刺激を与えることができているのは、面白い事例だと感じます。

また、女性活用の更なる効果として、イノベーションの創出があると言います。イノベーションの父とも言われるシュンペーターは、イノベーションとは「知の新結合」と定義しています。多様性のある環境を構築することで、様々な「知」が混ざり合い革新的な仕組みや取組みが起きる可能性は確実にあると言い切ります。

なお、今回のインタビューからは女性の役員ならではのメリットに関して、全てを聞き出せなかったと感じています。この問いに関しては、女性役員ではなく、女性役員と一緒に仕事をしている男性役員から話しを聞く方が、多様性による変化の度合いが分かり易かったかもしれません。

女性活躍が実現する条件とは

最後に、「女性活躍を実現するには実際に何を考え、検討すべきか」について話を伺いました。

「女性が活躍するためのポイントは、長時間労働の是正じゃないですか。」

大塚先生はこう言いきります。

「やはり家事負担が、断然日本の場合には女性に偏り易くなっている。最近はだいぶ変わってきたように思いますが、それでも子育てとか考えると仕事や家庭の時間を合わせるとさらに長時間労働になっているのではないでしょうか。」

「残業や急な子供対応などの要因で、役職者に昇進することをためらう女性も少なくありません。逆に、男性側も家事や育児に参画したくても長期間勤務で時間的な余裕がないケースも耳にします。」

「日本は先進国の中でも生産性が低いと言われていますが、経費節減ではなく労働時間削減を目標にして業務効率化や生産性向上施策を行うということも、ひとつの方法ではないでしょうか。また、一歩ふみ込んで、家事労働削減などの福利厚生施策も検討の余地があると思います。」

「長時間拘束がなくなればビジネスで活躍できるできる女性ももっと増えるのではないですかね。育休や介護、病気療養、自己啓発なども含めて、男女限らず仕事とプライベートの時間配分をコントロールしやすくなると、働き甲斐も組織への帰属意識も高まるのではないでしょうか。」

ここ何年かは、男性の育児休業制度など、社会制度が変わりつつあります。それでも国が推進をしなければ導入が進まない現状を考えると、女性の長時間労働という答えは的を射ていると感じます。企業においては、単に研修や休業制度を作るだけではなく、従業員のワークライフバランスをトータルでケアできる環境の構築が求められているのではないでしょうか。

「あとは、ロールモデルが少ないことがありますね。身近に管理職や役員となって活躍しているお手本となる人が少ないのではないですか。」

私が第七回のモチベーション向上のテーマの中で書いたことが、まさに大塚先生の口から出てきました。株式会社mog社の調査結果からも、「研修や女性登用の制度を整えるだけでは不十分であり、さまざまな環境やスタイルで活用する、ロールモデルの存在が必要である」ことが明らかになっています。

大塚先生は、ロールモデルを作るためにも「ポジティブ・アクション」の取組みが重要だと言います。ポジティブ・アクションとは、固定的な男女の役割分担意識や過去の経緯から、男女労働者の間に生じている場合、このような差を解消するために個々の企業が行う自主的かつ積極的な取組をいいます。制度において男女差別的取扱いはないにも関わらず「女性の職域が広がらない」「なかなか女性の管理職が増えない」、そのために女性の能力が十分に活かされていないといった場合に、このような課題を解決し、実質的な男女均等取扱いを実現するために必要となります。(厚生労働省HPより引用)

今回のインタビューを通して、改めて女性活躍を活性化させるためには、多くの障害が残されていることを感じさせられました。それは経営側の姿勢や、旧態依然とした思考であり、女性を取り巻く環境や、家族としての在り方の考え方にも及ぶ根深い日本の問題として捉えることができます。

最後になりますが、今回このような機会を頂いた大塚先生には感謝の意を表し、第11回のコラムを締めたいと思います。

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