『ファミリービジネスにおけるダイバーシティ経営』 第十七回 外国人の採用と活用ついて

法政大学IM総研ファミリービジネス研究部会 特任研究員
中小企業診断士 
ダイバーシティイノベーション株式会社 CEO 榎本典嗣

本コラムは、中小企業診断士であり、長年中堅・中小企業の経営支援に携わってきた榎本と同じく中小企業診断士でもあり、社会保険労務士・行政書士として中小企業の人事戦略を支援してきた瑞慶覧と連載していきます。

コラムは6月より約半年に渡り、毎週月曜日に配信を行う予定にしております。

第十七回 外国人の採用と活用ついて

ダイバーシティとは「多様性」を表す通り、多様性を意識した採用を検討する際には、女性、高齢者、障がい者、外国人など、それぞれのカテゴリーにおいて対策を検討しなくてはなりません。第17回コラムでは、特にハードルの高い外国人の採用に関して取り上げます。

外国人の採用に関しては、大きく2つの視点で注目が高まっています。まず1点目は、高度人材の確保です。経済産業省 通称白書2016によると、「我が国における高度人材の必要性が高まっており、こうした人材の確保が課題となっている。その中でも高度外国人材は、我が国企業の海外戦略に貢献するとともに、我が国の人材との交流によって新たなイノベーションのきっかけになるとの指摘があり、我が国でも高度な専門知識や技術を習得している外国人材の呼び込みを促進し、世界の質の高い人材を確保することが重要視されている。」と述べられています。

2点目として、外国人の採用は、近年多様性の確保だけの問題ではなく、労働力の確保という面で大きくフォーカスされています。少子高齢化が進む日本において、将来の労働力を外国人に頼ることは避けることが出来ません。そこで、ここからは人材確保の視点で話しを進めていきます。

(出所)厚生労働省 将来推計人口(令和5年推計)の概要

厚生労働省の資料からは、2070年に日本の総人口が8700万人と現在から約4000万人減ることに加え、15歳から64歳までの生産労働人口も同様に大きく減少することが見てとれます。しかも総人口の8700万人という数字は、在留外国人も含まれた数になりますので、純粋に日本人の人口は相当数減少することが予想されています。

また、これらの減少は単に労働力が減るだけではなく、日本の商圏も縮小することを意味しており労働力という視点以外でも大きな問題を孕んでいます。

このグラフ一つからも、日本の将来はかなり厳しいことになることが容易に想像されます。そして、この厳しい状況を打破する方策の一つが外国人労働者を確保することになります。既に直近では外国人の労働者に頼らざるを得ない状況もあり、外国人労働者の姿を多く見かけるようになりました。しかし、飲食店やコンビニでは多く見かける一方で、いわゆるホワイトカラーの外国人労働者はあまり増えていない印象があります。そこで、まずはこの状況を紐解くために、日本における外国人労働者の就労状況を確認していきます。

下表は、厚生労働省が出している在留資格別外国人労働者の推移を表しています。2020年時点において、日本で働いている外国人は約172万人となります。日本の総労働者数が約6723万人ですから、外国人労働者の占める割り合いはわずか2.6%となります。また、毎年外国人労働者数が増加しているものの、ここ数年はコロナの影響もあってか、伸び率は減少傾向にあることが分かります。

(出所)厚生労働省 在留資格別外国人労働者の推移

ダイバーシティが叫ばれ、実際に労働力が不足している日本において、なぜ外国人労働者が増加しないのでしょうか。理由として日本政府の外国人政策、採用する企業側の問題、外国人本人の問題など原因は幾つか挙げられますが、中でも日本政府の外国人政策に大きな問題があると言われています。

日本政府が行っている政策の中でも、まず挙げられる問題の一つが在留資格になります。この在留資格は、持っていれば当然のごとく日本で働くことが認められるのですが。外国人労働者は在留資格の種類によって働ける職種が決まってしまうルールがあります。もともと日本は、外国人の移民や難民に対して否定的なスタンスを持っていることから、日本で働く外国人には就労を定めた在留資格が決められてきました。

なお、外国人の若者が日本に在留する種類は大きく3種類あり、外務省が管轄するワーキングホリデー、厚生労働省が管轄する技能実習生、文部科学省が管轄する留学生に分かれています。

技能実習生の問題は、ここ何年か賃金未払いや人権侵害など違法労働の実態がメディアで取り上げられ、大きな問題になりました。そして、技能実習生という在留資格は、働ける職種が決まっていて転職ができないという問題点を持ち合わせています。

技能実習の問題はこうした背景から、制度は廃止するとともに新たな在留資格を設置する方向で進んでおり、新たに設置された在留資格の1つとして特定技能が設定されました。しかし、特定技能は転職可能な資格ではあるものの、対象業種が14業種と狭いことや、ビザの要件が厳しいこともあり、なかなか増えていかない状況となっています。

また、留学生が卒業後に就職するにあたっても大きな問題を抱えています。日本の学校(専門学校、大学、大学院)を卒業した留学生は約8割が日本での就職を希望していると言われています。しかし、実際に就職できるのは3割~4割であり、半数以上の留学生は帰国を余儀なくされている現状があります。

彼らは在学中のアルバイトに関しては、どんな職業にも就くことが可能な一方で、卒業後は在学中に学んだ内容に直結する仕事にしか就くことができない問題を抱えています。つまり、文学部を卒業したら、文学に関連する企業にしか就職ができない仕組みになっているのです。企業側も優秀な外国人学生を卒業後に雇いたいと思っても、仕事内容と学部や専攻とのアンマッチにより雇用できないのが現状となっています。

このように、外国人を雇用するにあたっては、乗り越えないといけない壁があることを認識しなくてはなりません。そもそも国力が下降し、円安の日本で働きたいを思ってくれる外国人がこの先増えるのかという問題もあります。外国人は日本で働きたいであろう、という幻想をいつまでも持っていること自体が危険な考え方だと言えます。

特に、高度人材といわれるような高度な知識や技能を有している人材は、国境を越えた獲得競争が行われており、高度人材の獲得は日本にとっての大きな課題となっています。なお、高度人材ですが今やアジア系人材の存在が大きくなってきています。下記の表はGoogle社の採用者のデータですが、年々アジア系の就労者が増えていることが分かります。高度人材は欧米系がメインであるというバイアスは排除する必要があります。

(出所)Google Diversity Annual Report2023

いかがでしたでしょうか。人材不足であれば、外国人を採用すればいいという安易な考えを持っていても、実際に採用可能な外国人の対象者は少なく、採用するにも多くの問題をクリアする必要があることをご理解いただけたのではないでしょうか。

また、実際に採用に至ったあとも、採用企業側は受け入れのための準備や努力が必要となります。言葉の壁は今となれば様々なITツールを駆使することで乗り越えることは難しくない時代になってきました。しかし文化の違いに関しては、ITを駆使したところで解決できるものではありません。

ダイバーシティ経営を進めるにあたっては、多様性を受け入れるための体制や制度の設計が必ず必要になります。特に一緒に働くメンバーが多様性を受け入れ、プラスの方向に働かせるチーム作りができるよう、企業風土を変えていく必要があります。しかし、当然のことながら企業風土を変えることは一朝一夕にできることではありません。だからこそ、少しでも早くダイバーシティ経営に取組んでいく必要があるのです。

外国人を採用のために対策を施し、採用後も受け入れ彼らが能力を発揮できるような環境作ること、これこそが外国人向けのダイバーシティ経営の基礎となります。グローバル化している世の中で、外国人という多様性を取り入れることは避けて通れないことを改めて認識しなくてはなりません。

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