『ファミリービジネスにおけるダイバーシティ経営』 第四回 女性活躍を阻む壁

中小企業診断士・特定社会保険労務士・行政書士 瑞慶覧 拓矢

本コラムは、中小企業診断士・社会保険労務士・行政書士として中小企業の人事戦略を支援してきた、瑞慶覧と中小企業診断士であり、長年中堅・中小企業の経営支援に携わってきた榎本と交互に連載していきます。

目次

第四回 女性活躍を阻む壁

第一回のコラムでも説明したとおり、日本におけるダイバーシティは性別や障害等の面に注目した多様な人材を活用することされています。

今回のコラムでは、多様な人材という概念の中でも、昨今話題に上ることの多い女性の活躍について書いていきます。

このテーマを検討するに際し、つい先日興味深い指標の発表がありました。それは、世界経済フォーラムが発表した2023年の日本のジェンダー・ギャップ指数です。この指数は、「経済」「教育」「健康」「政治」の4つの分野のデータから作成され、0が完全不平等、1が完全平等を示すもので、これらの数値を順位付けした結果、昨年と比べスコア・順位とも下降しているとの報道です。

この指標が下降したという事実だけをもって女性の活躍が阻む壁が何かを断定することは出来ませんが、世界を見渡すと相対的にジェンダー(社会的・文化的に作られる性別)によるギャップ(男女の違いによる格差)が生じていると言えるでしょう。

では、日本は世界と比較してどの程度女性の格差が生じているかを、世界と比較した女性の管理職比率から確認してみます。

令和元年版男女共同参画白書によると、日本における管理的職業従事者に占める女性の割合は14.9%となっており、諸外国と比較しその数値は大きく下回っています。(下図参照)

(出典:内閣府 令和元年 男女共同参画白書)

この点、日本政府も課題として認識しており、令和5年6月に公開された女性版骨太の方針のプライム市場上場企業を対象とした女性役員比率に係る数値目標の設定等において①2025年を目途に、女性役員を1名以上選任するよう努める ②2030年までに、女性役員の比率を30%以上とすることを目指す ③左記の目標を達成するための行動計画の策定を推奨する。としています。このように、情勢的にも女性が活躍できる社会に向けた環境整備についての機運が高まっていると言えます。

では、これらを進めるにあたり、中小企業において何が障壁となっているのでしょうか。

一つに、女性の就労の壁となっている制度や慣行の見直しが進んでいないことが考えられます。

 前出の令和5年版男女共同参画白書(以下、「白書」という)では、男女ともに職業観、家庭観が大きく変化していることが示されており、それを踏まえ、新しい生活様式・働き方へ切り換えていくべきであると指摘しています。具体的には、柔軟な働き方の浸透、仕事の成果に基づく評価制度の導入です。ひとつずつ見ていきます。

まず、柔軟な働き方の浸透ですが、ひとつの方法として労働者一人一人のライフステージ、出産や育児などのイベントに対応しながら働くことが出来る休暇・両立支援制度を確立することが考えられます。これは、単に育児介護休業規定を改定するだけでは効果は見込めません。実際にも、制度は規定されているが形骸化している。どうしたらいいかという企業様の相談をお伺いすることがあります。

では、どのようにすれば実効性を持たせることが出来るのでしょうか。一つに助成金の活用をきかっけとして制度を整備することが考えられます。育児休業に入る従業員がいるときに、その従業員がスムーズに育児休業に入り、その後復帰をするための制度を整備することで受給できる両立支援助成金という厚生労働省管轄の助成金があります。

これは、次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画や育休復帰支援プランを策定し、企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むことで受給できる助成金です。助成金の申請フローを通じて、育児休業取得から復帰までの流れをスムーズに行うために、育休取得者のみならず会社の管理者、同僚などを巻き込んで制度を整備していくことができるので、ひとつの実効性を持たせる方法として活用してもいいかもしれません。

また、2019年の法改正により、さらに柔軟化されたフレックスタイム制度やコロナ禍において急速に進んだテレワークなども、勤務形態を柔軟化させる方法として効果を発揮します。業務内容や管理体制を精査したうえで、適宜導入を検討してみてもいいでしょう。

次に、仕事の成果に基づく評価制度の導入です。

2022年7月に施行された女性活躍推進法では情報公表項目として「男女の賃金の差異」が追加されました。

制度自体は常用労働者301人以上の大企業に対して義務づけられたものですが、これにより企業が支給する賃金については、大企業のみならず、いずれ中小企業においても男女問わず、より明確で納得性の高い評価制度と、それに連動した報酬制度を構築していくことが求められると考えています。

より明確で納得性の高い評価制度と報酬制度の構築にあたっては、透明性はもちろん、評価項目の達成により、モチベーションが向上し人材育成につながる項目であるのかという観点、ひいては会社の業績向上につながる制度であるかという観点が重要となります。女性の活躍を推進するに際しては、それに加えキャリアにおける女性特有の障壁にも気をつける必要があるでしょう。企業内で昇進の素質をもつ人物が、性別や人種などを理由に不当に昇進を阻まれてしまう現象がおこりうるとされた「ガラスの天井」や出産・育児によるキャリアロスにより、昇進や昇給などの機会が難しくなる「マミートラック」など職業生活上、女性が直面すると言われている観点についても考慮し、評価制度・報酬制度の構築にあたっては考慮する必要があるかもしれません。

また、女性の活躍を推進する場合に限らず、評価制度の原則として、評価項目の定期的な点検や従業員との面談、従業員意識調査などにより、評価制度の満足度や実効性を継続的に分析・検証・改善し、より明確で納得性の高い精度へと昇華させていく必要があるでしょう。

いかがでしょうか、ここで上げた施策は一例ですが、女性の活躍を推進するための制度整備といっても、単一の施策のみをもって実現されることは難しく、制度を構築しても会社の既存の制度や組織風土の影響を受ける場合も少なくないため、進めれば実現が約束されるものではありません。

そのため、まずは自社にとって取り組みやすい施策から取り組む(例えば、初めて育休を取る社員が発生し制度整備の必要性がでてきたため、両立支援制度を整備する など)ことで、制度の理解、検討、議論、社内発信等の制度構築を通して、女性が活躍できる風土を醸成し、中長期的に目標の達成を目指すのがいいでしょう。

実際に私が関与した企業でも、育休に入る従業員がいたにも関わらず、制度が整備されていないことにより、育休終了後そのまま退職となった社員が多くいた状況であったところ、助成金の活用を通して、行動計画の策定、育休に入るための会社からの説明(2022年4月から義務化)、引き継ぎフローの構築などにより両立支援制度の整備ができたという企業様もいらっしゃいました。

このように、まずは自社にとって出来ることから、国の制度や助成金の活用、行動計画の策定などのアクションをきっかけとして、誰もが活躍できる組織風土を少しずつ醸成していくことが一つの方法として考えられるでしょう。

本コラムでは、ダイバーシティ経営に取組む大切さへの気づきや、進めていく上で必要となる様々なファクターを2人の目線で取り上げていきます。

2023年8月23日(水)にファミリービジネス研究部会のセミナーを開催します。ダイバーシティ経営に関しても取り上げる予定となっております。詳細が決まりましたら告知しますので、ご興味のある方は是非ご参加お願い申し上げます。

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