法政大学IM総研ファミリービジネス研究部会 特任研究員
中小企業診断士 CEO 榎本典嗣
本コラムは、中小企業診断士であり、長年中堅・中小企業の経営支援に携わってきた榎本と同じく中小企業診断士でもあり、社会保険労務士・行政書士として中小企業の人事戦略を支援してきた瑞慶覧と連載していきます。
コラムは6月より約3か月に渡り、毎週月曜日に配信を行う予定にしております。
第九回
ダイバーシティ経営の現状を聞く 女性社外役員インタビュー
前編:ダイバーシティ経営を推進できない企業の問題点
昨今、2030年までに女性役員比率を30%以上とする、女性版骨太における方針決定により改めてダイバーシティ経営が注目を浴びています。こういった中、今回は実際に複数の企業の社外取締役として活躍されている法政大学専門職大学院准教授の大塚有希子先生にインタビューの機会を得ることができました。
前編となる今回は、ダイバーシティ経営を推進するにあたり、企業が抱える問題点についてのお話しとなります。
◇プロフィール
大塚 有希子 氏
法政大学専門職大学院イノベーション・メネジメント研究科 専任教員 准教授
大阪市立大学大学院修士課程、慶應義塾大学大学院博士課程
専門:プロジェクト・マネジメント、ビジネス・アナリシス、戦略マネジメント
著書:『PMBOK®原書の本質を理解できるプロジェクト・マネジメントの考え方『わかりやすい英語で学習するプロジェクト・マネジメント』Easy understanding for non-native speakers』(単著)大阪市立大学出版会 2016年 『経験の社会経済』共著 晃洋書房 2010年
大塚先生は授業、それ以外でもいつもニコニコしているとてもチャーミングな方です。一方で大学の教員として教鞭をとりながら、数々の企業の社外取締役を兼務しハードな日々を過ごされています。そして酒豪という一面も持ち合わせています!
「すごい厚い壁にぶち当たってます」
インタビューでは最初に、「ダイバーシティ経営の促進という点において、女性の社外取締役として感じる問題点や課題」に関してうかがってみました。
「すごい厚い壁にぶち当たってます。」この一言から始まりました。
「私の他にも女性の社外役員が何人か勤めている企業があるんです。私もそうですが、当然それぞれ専門分野を持っているのに、どうしても女性活用に関しては専門分野に関係なく女性役員が頼まれるんですよね。だけど専門外だけにやりようがないんです。」
この話からは、女性活用を意識はしているものの施策は他人任せであり、企業側が率先して検討できていない様子がうかがえます。また、実際に女性の社外取締役を雇い入れていること自体は、女性活躍の推進を進めている証ではありますが、同じ女性だからというだけで専門外の社外取締役に施策の立案を頼むことには確かに違和感を覚えます。
「何かいろいろと提言して下さいという割には、あんまり変わったことはしたくないという感じがあるんです」と更に話は続いていきます。
大塚先生は、多くの企業が女性活躍を喫緊の課題として捉えていないと言います。その背景としてダイバーシティ経営による多様性がもたらすイノベーションにまで、経営陣の意識が辿り着いていないことを指摘されています。また、女性活躍の為の対策は外発的動機になってしまっていること、結局のところ何をやっていいのか分からないことに加えて、あまり変わったことはしたくない、日本にはまだまだこういった企業が山のようにあると警鐘を鳴らしています。
「特に、今までの男性比率が高い会社とか、ベンチャーではないような業歴の長い会社は、なかなか変わるのが難しいて現状があります。」
「大企業もそうですけど、中小企業の場合は特に、他の経営戦略と一緒で、やはりトップの気持ちが入ってるかどうかが、大きく影響するんじゃないですかね。」
旧態依然とした企業の変革の難しさ、経営のトップが率先して率いることの重要さも指摘されています。このインタビューからは企業のリアルな現状を聞くことができた気がします。
目に見えて身近な課題から手を付ける
では、何をすればよいのか、という問いに対して大塚先生が提示してくださったのは「人材不足」という切り口でした。
「どの企業であっても、変わらなくてはならないという意識は持っていても、イノベーションやDXって、もう全然違う世界になっていて切り離されてしまってるんですよね。」と大塚先生は言います。
「どちらかというとイノベーションって長期的な視点になることで、株主に対して説明する上ではどうしても短期的な思考に走ってしまう。」
「だからこそ、喫緊の課題である人材不足!人材不足という切り口から入ると、もうそれこそ女性でも高齢者でも外国人でも来てもらわなくてはいけない。」
「ダイバーシティやイノベーションといった言葉は概念的ということもありなかなか手を出しづらい。一方で身近にあって、目に見える課題であれば取組みやすい。そういう意味で人材不足からダイバーシティ経営に入るのが一つの方法だと思いますよ」
確かにその通りかもしれません。何から手を付けていいか迷いのある場合は、「目に見える」、「身近にある」、そして「喫緊の課題である」こと、この3つが揃うことで明確な施策が打ちやすくなることを改めて感じました。
更に大事なポイントとして「役員の施策と現場の施策が乖離してしまっている」ことを指摘します。
「役員は女性管理職比率を50%にすると言っているのに、実際の採用状況を聞くと新卒の女性比率は10%しかない。この状況でどうやって50%にするのか。」
このような話を聞くと、経営トップの思いと現場の実施内容がかけ離れていることが現実的に起きていることを気づかされます。
いかがでしたでしょうか。第9回は、大塚先生へのインタビュー前編として、ダイバーシティ経営を推進するにあたって、実際の企業の課題や現状についておうかがいしてきました。
上場企業であっても、ダイバーシティ経営の推進状況は道半ばであることを垣間見ることができました。一方で、ダイバーシティに対する必要性を感じていることは間違いなく、キーワードを上手く活用することでダイバーシティ経営を推進できるヒントを頂けたと思います。
11回コラムでは後編として、以下の2点を中心にお届けする予定です。
・女性社外取締役の存在の効果
・女性活躍を推進するポイント